企業が卵子凍結保存に対して補助金を出すことについて
FacebookやAppleが卵子保存に補助金を出すっていうニュースは結構衝撃的だったのを覚えている。ガン治療を受ける女性社員からの話がきっかけだったというから正確には医療用以外の卵子凍結保存を勧めるために打ち出したものではなかったのだけども。それにしても動き早いよFacebook、さすがだ。
ということで?今回は、生殖学系のジャーナルから一つ、関連している論文をピックアップして書いてみる。
今回の論文はこちら!じゃん!ゾールさん?ゾールでいいのかな?笑
私の友達がUberウーバーをウベールって読んでたの思い出す。じわじわくる。
Miriam Zoll - About Miriam Zoll
Zoll, M., et al. (2015). "Corporate giants provide fertility benefits: have they got it wrong?" European Journal of Obstetrics & Gynecology and Reproductive Biology 195:
FacebookやAppleだけでなくIntelも卵子凍結保存を含む生殖に関するテクノロジーに関するサポートをすると発表したという。Intel入ってる?しかイメージないけど。
出産を遅らせたい女性にとってはこれは良いニュースとなっている一方で、卵子凍結保存の安全性や効果についての医学的根拠や十分な考慮がされていないのではなかという懸念が挙げられている。実際に、IFVや卵子保存のリスクや失敗率などに関するたくさんの誤解が世の中にあることを鑑みると、企業のこのようなサポート表明がもしかしたら妊娠、出産サポートするどころか危険にさらしてしまう可能性がある、ということであり、企業や専門家たちは早急な判定と、もっとだいだい的なメディアや公的な情報共有と教育が必要だと、ゾールさんは唱えている。
そもそも企業による卵子凍結保存サポートは American Society for Reproductive Technology (ASRM)が2012年後半に卵子凍結保存を”Experimental(実験用)”に引き上げたことから始まっている。これは4件のランダムに選んだものも含む981件の研究結果の検証の結果に基づいており、妥当な安全性を示したデータは32件、適切なメリットに関するデータが80件だったという。
安全性について
現在のところ生殖補助医療を通して生まれた赤ちゃんたちや、ホルモン注入をした女性などの健康に関わる長期的研究はほとんど行われていない。
- 凍結保護物質が細胞の発達に与える有害な影響の可能性について
- Virtification法(高速冷凍)による安全性や効果について
などについて、現在議論が行なわれている。
現在のデータから
- Virtification法のほうがSlow freezging法より解凍、および妊娠率が高いこと
- IVFやICSIによる出産では、低体重、早産、新生児死、先天性欠損症、自閉症や精神障害が2〜5倍であるということ
卵子凍結保存の可能性について
The Society for Assisted Reproductive Technology (SART)という機関の推測によると、38歳以下の女性だったとしても、1つの凍結卵子から出産に至る可能性はたったの2-12%であり、年齢が上がれば上がるほど可能性が下がっていくということである。38歳以上で凍結保存された卵子から生まれた子供は世界中で10人以下だと言われている。(2011年時点)
さて。
超超超矛盾である、とゾールさんは言う。
もし企業が卵子凍結保存補助を始めると、保存する女性の平均年齢は下がり、統計的には成功率があがることになるであろう。しかし、若くして保存をする女性の多くは、生殖能力が今後当分失われないのだから解凍する必要がないまま終わる可能性のほうが高いかもしれない。と。
まず第一に女性も男性も企業も、知っておくべきことは
もし!卵子を保存したとしても
もし!体外受精ができる、という選択肢があったとしても
出産を遅らせることは”常に”子供を産む確率を下げていること!である。
この点においてthe ARSMが”卵子凍結保存医療用にのみ使われるべきであり、出産を遅らせるために必要とされるべきではない”というのは正しい。
しかしそれにもかかわらず、企業やクリニックや医者までもが卵子保存を勧めているのか。企業がサポート制度を導入した場合に、女性社員が卵子を保存してまでキャリアを追求するプレッシャーをかけられるのではないか?(これに関しては以前すこし触れたが30歳のジレンマと卵子凍結保存 - Egg freezing?)とか、誇張された卵子保存の効果を信じて、自分は加齢不妊とは無縁だああああ!と安心してしまうのではないか?という批判は絶えない。
いずれにせよ、生殖寿命に関する十分な情報や理解なしに出産を遅らせることは、出産に伴うリスクを高めているだけでしかない。こういう意味では卵子凍結保存は、相反する”キャリア”と”家族”のバランスという社会問題を解決するための策というよりは、単純に”遅らせている”だけでしかない。
”危険”で”実験的”な卵子保存をつりさげて女性従業員のモチベーションをあげるよりは企業はきっともっといい職場制度ー女性も男性ももっとも安全な道で出産ができて、なおかつキャリアの保証をするーことが必要なのではないだろうか、とゾールさんは言っているのである。
例えば最近オランダで発表されたジャーナルによると、母子ともに安全かつ健康な出産のために、早めの出産が推奨されるべきだ!ということである。3人子供が欲しい場合は23歳から、2人であれば27歳で子供を産みはじめましょう!っていう分析であった。ああ、わたし2人子供欲しいんですけど。27ってもう。。。 ガ━━Σ(o゚Д゚op)p━━ン!! 。
とはいってもこれをなかなか人生プランに組み込めない。そう。そうなの。ということでゾーンさんは、有給の産休育休(男性・女性ともに)、安くて安心なデイケア施設を企業内に導入すること、フレキシブルな働き方などが提案している。
正直そんなこと言われなくても企業サイドもわかっていると思うし、私個人としてはFacebookやAppleやIntelのポリシーを頭ごなしに批判する必要はないと思う。まずこれを制度に取り入れれるところが、金銭的にもスピード的にもすごいし。
ただ、一つだけ念頭に置いとくべきことは、
”出産を遅らせるための卵子保存はリスクを高めることでしかないこと”
と、そして企業が考える第一は
”従業員と、その家族の健康を守ること”
なんじゃないかなって私も思う。2点目においてはFacebookの女性従業員の方のようにガン治療で卵子凍結保存しなければ妊娠を諦めなければいけないひとにとって卵子保存補助金は、まさに従業員を守る、の理にかなっているし。
どう思いますか?
外資系企業の一部では、子育てでキャリアを中断した女性を呼び戻そうという活動も最近は盛んになっているから企業の認識も変わってきているし、生殖寿命に関する十分な情報や理解が必要!というが、これに関しても日本の性教育問題が大きく関わっているので(間違いなく性の国 オランダとは状況が違うし、、)これらにも今後ふれていきたい。
去年親友と二人でオランダの飾り窓に突入したときの緊張感を思い出しましたわ。
あの国の性教育ってどうなってるんだろ。。